#1 メカトラックス・永里社長 × QBS・目代准教授
創業から一貫して福岡に位置しながら「ラズベリーパイ」関連ビジネスで着実な成長を遂げているメカトラックスの魅力に迫ります。
電子回路・組込ソフト・センサー・機構などハードウエア全般の開発と製造、販売を担う「メカトラックス株式会社」。4G(LTE)通信モジュール「4GPi」をはじめとした「ラズベリーパイ(RaspberryPi)」向けのオリジナル製品のリリースを契機に順調に成長し、福岡に位置しながら国内中小企業~グローバル企業、大学等研究機関まで幅広いユーザとビジネスを進めています。今回は九州大学大学院経済学研究院・産業マネジメント専攻に所属する目代武史准教授を迎え、QBS4期生の永里壮一社長に事業内容や戦略、今後のビジョンについてインタビューしました。
対談者
永里壮一 / メカトラックス株式会社 代表取締役
1997年九州大学大学院修了(工学修士)後、日本電気株式会社で通信LSIの研究開発に従事。2005年にメカトラックス株式会社を創業。09年九州大学ビジネススクール修了(経営学修士)。テクノロジーをベースにマーケティングやプロモーションを踏まえた製品開発・オペレーションモデル構築・事業開発に従事。近年はラズベリーパイ用機能拡張基板やそれらを組み合わせた小ロット製造など展開する。
目代武史 / 経済学研究院 産業マネジメント部門 准教授
広島大学大学院国際協力研究科修了(学術博士)。広島大学地域経済システム研究センター助手、東北学院大学経営学部准教授、九州大学大学院工学研究院准教授を経て現職。専門は生産管理、企業戦略。
なぜ「ラズパイ」? 創業からビジネスモデル確立まで
永里 メカトラックス代表の永里です。QBS入学は4期で、長期履修で2009年に修了しました。QAN(※1)会長の寺松一寿さんは私の同期でもあり、QAN会員やQBS教官が互いの事業や業務を通じて交流を増やしていければと考えています。本日は宜しくお願い致します。
※1 QAN……一般社団法人QBSアラムナイネットワーク。QBS修了生を中心としたコミュニティ組織。
目代 九州大学大学院経済学研究院、産業マネジメント専攻の目代です。九州大学に来たのは2011年。その前は仙台にある東北学院大学に勤めていました。出身は北九州・小倉ですが、福岡とは雰囲気がだいぶ違うので「戻ってきた」と言うよりは「新しいまちに来た」と感じています(笑)。QBSに移籍したのは2016年からです。永里さんは、いつ頃メカトラックスを創業されたのですか?
永里 九州大学工学部の大学院を修了し、97年に就職して半導体の研究者として勤務していました。大学院生の時に全学共通講座で始まった坂口光一先生のベンチャービジネスに関する講義をうけてから「自分でも何か事業をやってみたい」との思いが燻ぶっていて(笑)、2005年、34歳の時にメカトラックスを創業。苦しい時期もありましたが、今年で何とか17期目を迎えることができました。5年前くらいに自社のビジネスモデルに手応えを感じた時期があり、それは後ほどお話しする現在の事業に繋がるのですが、ちょうどその頃に読んでいた楠木建先生の『ストーリーとしての競争戦略優れた戦略の条件』に影響を受け、明確にストーリーとしての戦略を描けたことが今に繋がっていると思っています。
目代 『ストーリーとしての競争戦略 優れた戦略の条件』、名著ですね。
永里 何度も本を読みながら自社の経営を整理してみたら、すとんと腹落ちして経営戦略の軸が定まりました。あとは前を向いて走るだけ。振り切れました。
目代 永里さんのご経歴を拝見しました。最初はロボットのゲーム機の開発をされていたとか?
永里 はい。創業当時(2005年ごろ)は二足歩行の小さな人型ロボットを扱っていました。当時、人型ロボットはHONDAのASIMOなどが有名でしたが、そのようなハイエンドの機体でも実際に社会の役に立つ動作をさせることはなかなか難しく、周到に用意されたデモやショーが活躍の中心でした。私たちは人型ロボットが活躍できるのは、その魅力がダイレクトに活かせるエンターテインメント分野と考え、世界初のロボットアミューズメント機器を2007年にリリースしました。ただ、この製品は残念ながら完成度が低く、マーケットに受け入れられずだいぶ苦労が続きました(苦笑)。
目代 現在のビジネスモデルとは異なりますよね。方向転換をされたのは?
永里 2013年ごろですね。当時、インターネットへの接続は光ファイバーなどの有線回線がベースになっていましたが、ちょうどその頃、MVNO(※2)による携帯電話回線の価格破壊が始まりつつあって、私は誰でも気軽に安価に携帯電話の回線を使ってネット接続する方法がないかと模索していました。それで2014年に作った製品が「ラズベリーパイ(RaspberryPi)」向けの携帯電話基板「3GPi」です。
※2 MVNO......「Mobile Virtual Network Operator(仮想移動体通信事業者)」の略称、ドコモ等携帯電話会社から通信回線を借り、自社ブランドで提供する事業。
競合は? 参入障壁は? ポジショニングを確立できる理由
永里 わかりにくいので製品をお見せしながら説明しましょう。「ラズベリーパイ(RaspberryPi、以下ラズパイ)」とはARMプロセッサを搭載した教育用のシングルボードコンピュータで、イギリスの財団によって2012年に販売開始されました。クレジットカードくらいの大きさの電子回路基板ですが、これにディプレイやマウス、キーボードをつなぐとパソコンに変わります。OSは主に「Linux」。カメラも接続できます。
目代 なるほど。ではメカトラックスは、このラズパイ本体につなぐ製品を作っているんですね。
永里 おっしゃる通りです。例えばうちの製品「4GPi」を使えば、SIMカードを挿すだけで、携帯電話が繋がるところであれば日本国中どこからでもラズパイをインターネットに接続できます。
目代 コンパクトで便利ですね。
永里 ラズパイは元々が子供向けの教育用コンピュータとしてリリースされましたので、数千円で購入できるくらい安価で、当初はおもちゃのようなガジェットと認識されていました。私たちも当然そのような認識だったので「電子工作が趣味の方向けに」「大学の先生の研究用に」と軽いノリで作ったのですが、発売直後に10個単位で購入してくださった法人がいらっしゃって、業務用のニーズがあることに初めて気がついたのです。これは全く想定外の現象でした。
目代 ほう、おもしろいですね。
永里 当時は、安価でおもちゃのようなラズパイを業務で使うという発想はそれこそクレイジーで(笑)、電話で聞いてもなかなか用途を教えてくれなかったのですが、なんとか購入者のもとを訪ねて用途をヒアリングすると、設備の遠隔監視をラズパイと携帯電話回線を使ってやりたいということがわかりました。当時はM2M(Machine-to-Machine)という言い方が普通でしたが、今で言うIoT(Internet of Things)ですね。それからは業務でラズパイを使う際に便利な製品としてラインナップを増やし、現在に至ります。
目代 当初は考えていなかった展開ですよね。でも、ご縁に従って進むとチャンスが見えてきた。
永里 そうなんです。軌道修正をしながらも疑問や興味を掘り下げていった結果、事業戦略が見えてきました。
目代 競合他社は多いのでしょうか。
永里 海外では十数社、国内では数社ほどです。ただ、最近では無視できないマーケットになりつつあるのか、老舗の大手企業も製品をリリースしたり動きが活発です。
目代 なるほど。イギリスの財団が開発したとのことでしたが、この周辺機器を作るのにライセンスは必要なのでしょうか。
永里 必須ではありませんが認証制度はあるので、弊社は本部から認証をもらっている製品には表示しています。
目代 では、手を出そうと思えば誰でも手を出せる市場ではあるわけですね。
永里 そうですね。作れる会社はたくさんあるはずです。ただ、後ほどお話ししますが、技術力の高い実績のある老舗の会社ほど自社製品とのカニバリゼーション(共食い)があるので参入が少ないのだろうと推察してます。
目代 開発は自社で?
永里 製造は外部ですが、開発はすべて自社です。
目代 外部との連携は取りやすいポジションなのでしょうか。
永里 通信やクラウド、ソフトウェア系の企業と連携を取りやすいよう、意図的にそれらの業務は自社でやらずハードウエアに特化した会社としてのポジショニングを意識してます。
目代 どんな顧客が何の用途で購入されているのでしょうか。
永里 システム開発を専門とする「SIer(エスアイヤー)」と呼ばれるハードウエアの開発は自社では担わない企業の割合が大きいですね。あとは、ハードウエアを開発・製造する企業でも弊社製品をモジュールとして組み込んで使用される企業も増えてきてます。
目代 ウェブサイトでは大手メーカーも取引先として挙げられていましたが、どんなメーカーが多いのでしょうか。
永里 機械の振動や電圧の計測など、機械設備の監視に使われているようです。大手でも古い機械を使用している工場が多いので、低コストでデータの計測ができる点が導入の決め手となっています。
目代 そうそう。古い機械を使っている大手って、実はすごく多いんですよね。最近、工場のデジタル化の調査をしているので、そのあたりの実情はリアルにわかります。データを取得するためだけに設備投資することはあり得ませんからね。製品にはどの程度の信頼性・耐久性を求められるのでしょうか?
永里 プロトタイプ的に使用いただいているケースが多いように思います。まずはやってみて、自分たち意図しているデータがとれるのか、お金と時間をかけずに試してみる。ラズパイは、元々は子どもたちが使う教育用のコンピュータなので、それほど繊細なものではなくタフで耐久性も比較的高いです。
目代 それほど長持ちしなくてもいいんでしょうね。
永里 やはり安価なので「使い捨て」とまでは言いませんが、交換を前提に購入いただくことは多いですね。以前、電鉄の情報表示板向けに50セットほど導入された際、交換用に数セット余分に購入されたケースもありますが、結局5年ほどノントラブルで稼働し続けてるなど聞いています。
目代 それなら十分ですね。
永里 どんなデータを集めるべきか、集めたデータがどう使えるのかもわからない。効果が確信できない状態で企業が投資するのはリスクが高い。それならば、シンプルにデータを安価に収集してから検証してみる。そうしたニーズが多いのだと捉えています。
目代 おっしゃる通りですね。
永里 私自身、なぜ業務用途でもラズパイが普及しているのか自分なりに考えてみましたが、過去にNECが出したPC-98というパソコンが工場での計測や制御で活用されてたのと同じ現象なのではないかと。高価な専用機器の使用が当たり前だったビジネスの現場で、PC98のような比較的安価な汎用のコンピュータを使ってみたら、意外と役に立つとわかった。当時のPC98のような、いわゆるパソコンは専用機器と比べると信頼性とか安定性とか不安な面もあったが、ソフトウエアの開発環境や周辺機器、それらを活用してソリューションを提供するSIerの勃興など、破壊的イノベーションともいえる波が起こり、それが当然のように受け入れられるようになった。同様のことがラズパイ周辺でも起こっているのではないかと。
目代 興味深いですね。巨大なシステムを提供するベンダーもいますが、そこまでの規模が本当に必要かどうかはわからない。特に、国内メーカーはシンプルな仕組みを求める傾向があるので、すぐにできることを積み重ねていく日本企業のやり方に合っていると感じました。DXのための試行錯誤を可能にしてくれる製品だと言えますね。
メカトラックスの強みは? 業界のリーダーとして
目代 これも同じ製品ですか?
永里 別シリーズで、電圧を計測するための製品、いわゆるA/Dコンバータ―です。4G(LTE)での通信を可能とする製品「4GPi」と併用可能で、電圧を計測してLTEで送信することができます。
目代 では、アナログの情報を0と1のデジタル信号に変換するんですね。
永里 その通りです。工場などの現場に設置されるセンサーの出力はアナログな場合も多いので、それらを電圧値として計測できます。ラズパイで使えるA/Dコンバーターは、安いと数百円ほどの製品もありますが、私たちの製品は業務用途での使用でも満足してもらえるような製品仕様としています。
目代 メーカーやSIerが、メカトラックスに依頼する要因は何なのでしょうか。ひとつは今もお話に出た「品質」だと思いますが。
永里 他社との差別化という点では、私たちは単にハードウエアを提供しているだけでなく、ソフトウェアのエンジニアの使い勝手を考慮してドライバーソフトウエアも含めて全て自社で開発しており適宜アップデートもしています。そこが評価されているのかもしれません。また、ラズパイを安定して稼働させる為のノウハウも製品に反映されており、そこも大きな強みだと考えています。
目代 試作機が製品レベル、ということですね。
永里 「プロトタイプをプロダクトに」。私たちのコーポレートメッセージでもあります。また、自社製品は常時在庫しているので、ラズパイと自社製品を組合わせた小ロット製造にも柔軟に対応できます。
目代 特注品もOK?
永里 もちろん。現実的にいちばん多いのは特注品とうちの製品を組合わせたセミオーダーです。4G(LTE)通信やA/Dコンバータ―などのラズパイに追加したい主要な機能は既に自社製品化してるので開発する必要はなく、特注部分を最小限にできます。また、高度な特注品開発の依頼に対しても、自社製品開発での豊富なノウハウが活用できることも大きな強みです。
目代 競合他社ではなく、メカトラックスが選ばれる理由は何だとお考えですか。
永里 通信や電源管理、A/Dコンバータ―といったラズパイを業務活用する為の諸機能に対して製品を展開しているのは私たちだけです。一方これら分野に大手が参入することは技術的に十分可能ですが、そうなるとラズパイを使った安価なソリューションと既存の高額な専用機器を使ったソリューションとのカニバリズム(共食い)が起こる恐れがある。失うものが無い私たちと違い(笑)、既存事業があるなかで大手がラズパイ向け製品に振り切るのは難しいのではないかと考えています。
目代 大手ではない同業他社はいかがでしょうか。市場もニーズも大きくなっているから、今は互いを喰い合わない状況とか?
永里 そうですね。将来を見越して、新製品を増やしたり、アライアンスを強化したりするなど、フットワーク軽く活動できるようかなり気を配ってはいます。
目代 企業がアイデアをかたちにしたい時、メカトラックスの製品ならすぐに安く手に入る。さらに、使ってみると実用性があり、繰り返し発注があるという状態ですね。受注を継続的に得るためのより積極的な仕掛けはあるのでしょうか。
永里 お客様とのコミュニケーションは、地方に立地し、人的リソースも少ないのでどうしても制限はあります。技術的なサポートなどで継続的にコンタクトして、使い続けていただけるように努めるべきですが、改善すべき点は多々あると感じています。幸い、オンラインMTGの一般化など地方企業にとってはありがたい状況もあります。上手くデジタルツールを活用して、自社にとって最適なマーケティング施策を実現できるよう人員体制も強化しているところです。
目代 なるほど。それにしても、メカトラックスの製品があれば、リスクを減らしてスモールスタートできる。企業に柔軟性が約束されるので、大きな助けになっているはずです。
何が良かった? QBSで学んだこと
永里 目代先生はどのようなキャリアを歩んでこられたのですか。
目代 自動車の研究を始めたのが広島大学時代。広島にはマツダの本社があるので、たくさんの部品メーカーが拠点を構えています。そのつながりでマツダに出入りするようになり、自動車産業との縁が深まりました。2000年代の初めごろ、国内ではクルマの作り方をモジュール化する動きがあったんです。メイン組立ラインの外にサブラインを設け、ある程度パーツを組み立てて寄せ集める「モジュール生産」と呼ばれる仕組みの調査を、国内外で進めていました。さらに発展して、クルマの設計自体のモジュール化についても国際比較研究をしています。
永里 おもしろいですね。モジュール化の推進は私たちの開発、製造のコンセプトにも近くてとても興味があります。
目代 最近では、未来のクルマのあり方が大きな課題です。ハイブリッド車をどこまで継続するのか、エンジンがどこまで残るのか。諸説が飛び交うなか、企業がどのように意思決定をしていくべきかを研究しています。新型コロナウイルスの影響で現場に行けない期間が続いていますが、直前までは日本・ドイツ・アメリカのチームで、「自動車におけるものづくりのデジタル化」をテーマに、各国の生産体制の比較研究を進めていました。
永里 どのような違いがあるんですか?
目代 アメリカはICT中心の考え方ですが、ドイツと日本はものづくりが中心の考え方という点で共通しています。ただ、ドイツはまずビジョンを考えてから、現場に落としていく。縦横の連携が最初からデザインされています。反対に、日本は現場から考えていくので着手は早いのですが、企業の境界を超えた横の連携がうまくとれない場合が多いとされています。
永里 まさしくそうですね。
目代 どちらの良さもありますけどね。
永里 勉強になりますね。
目代 ビジネスモデルを考えるうえで、QBSに行って良かったと思うのはどんな点ですか。
永里 私は工学部出身なので経営に関しては我流でしたが、QBSに行って経営の知識を棚卸しできたのがいちばんの収穫でした。テクノロジー系の会社の創業経営者は私のようなパターンが多いと思うので、一度行くと頭の中の情報が整理されていいと思います。自分が知らないことが多すぎて不安だった面もありましたが、「世の中は意外と経営実務の具体的なことは知らない人も多い!たぶん自分でも大丈夫だ!!」と視野が広がりました(笑)。
目代 いろんな知識があるべき場所に収まると、欠けている部分もわかりますよね。「棚卸し」の棚の全体構造がわかるというか。それが大事ですよね。あとは自分で勉強すればいい。
永里 自分が知らないことは何なのかを知る。大切なことですね。
目代 教える側の責任や意義もその点にあるのでしょう。
これからどうなる? 市場の展開とビジョン
目代 今後の展望を教えてください。
永里 ここ数年は策定した経営戦略も機能し結果も出てきてるので、今後はこれらをより深掘りできるよう地に足をしっかりとつけて成長を続けたいと考えています。顧客の役に立てること。そして、社員が幸せで、働きがいを感じる環境をつくることが私のミッションだと思っています。少数精鋭で、いかに収益性を高くキープできるかが肝ですね。その為には、組織的というよりも、各自が自ら手を動かしてフットワーク軽く新しいプロダクトやサービスを開発・改善していけることが何より重要と思ってますし、こういった姿勢は会社として続けていきたいですね。
目代 試作から実稼働をシームレスにつなぎ、顧客の労力をおさえながらDXを実現できることこそ、メカトラックスのダイレクトな価値だと感じました。それによって企業は試行錯誤する機会ができます。ラズパイのエコシステムが成長していくと有象無象のプレイヤーが入り乱れてきますが、メカトラックスが信頼できる作り手であることは、情報の経済学的観点で高く評価されるべきでしょう。今後も「現場」を持っている、メーカーからの引き合いがあるでしょうから、どのようにリーチしていくは興味深いところです。
永里 ありがとうございます。
目代 さらに、潜在ニーズに対してどうリーチしていくのかも、関心をもって動向を見たいと思います。大きな課題は、プレイヤーが増えて「玉石混交」状態になった時、業界の秩序をどう守るかですね。
永里 プレイヤーが増えると信頼性の低い情報も増えてきます。その点は私たちも意識して先手を打ちたいところで、広報など積極的にやっていくための体制など強化しているところです。
目代 ラズパイの認証制度は大きな役に立つでしょうね。いかにして不要な情報を除去して、顧客に届けるチャンネルを構築していくか。
永里 そのためにも、急激な成長を追い求めたり大風呂敷を広げず、着実に信頼や実績を守り続けたいと考えています。
目代 「働きがい」というキーワードも出ました。職場としての魅力はどのように作られていますか?
永里 私自身が元技術者なので、第一に「技術者が働きやすい会社にしたい」と考えています。そのためには逆説的ですが、経営戦略やマーケティングを深化させ収益をきちんと確保することが重要と考えています。充実した開発環境や余裕あるスケジューリング、失敗への寛容さなど「技術者が働きやすい会社」を実現する為には、十分な収益が必要です。同時に収益性を高めるためにも自社に不足している機能は外部との連携が必須となります。IoTの分野では、特にソフトウェア開発や通信回線を扱う企業とは補い合えると思います。そういったパートナーを大切に、お互いメリットのある関係性を継続して構築していきたいです。
目代 事業拡大や増員は見込まれていないのでしょうか。
永里 創業以来、資金的余裕のない中で少人数で走ってきたので、経営効率を優先に「少人数の強みをどれだけ生かせるか」についてはとことん考え抜きました。おかげさまで業績も上がり、さすがに人員不足を感じて近年は積極的に増員しています。幸い中核となる自社プロダクトから継続した売上や利益が得られ、そこからリピート販売や受託開発・製造の機会も生まれています。そこが人員や設備などのリソースに比例して売上と利益が増えるタイプの事業とは異なる点ですね。一度開発した製品から複数回のビジネスチャンスをひねり出す。お金がないからこそのビジネスモデルです(笑)。
目代 なるほど。
永里 働く環境づくりの視点では、技術者は開発に集中できるように電話応対や営業同行は原則やってません。また業務のスケジューリングやタスク管理なども比較的自由に設定できるようにしてます。これができるのも自社製品を持っていることの強みだと思います。社内のやり取りもチャットなど非同期のコミュニケーションを有効活用しています。。内部・外部とのコミュニケーションやスケジュール、タスクにあまり縛られないのは社内でも好評です。
目代 カットハウスで成功した「QBハウス」と同じ仕組みですね。自販機があるので会計不要。外にランプがあって込み具合を教えてくれるから待ち時間がない。電話もないから手を止めずにカットに集中できる。水回りを置かないので、設備投資も少なくて済む。オペレーションのシンプル化で、経営効率がかなりアップします。
永里 「省く」ことはかなり意識しています。やらないことを決める。
目代 会社の規模が大きくなると管理業務が増えるので、それが嫌で大企業を辞める優秀な開発者も多いと聞きます。ものづくりに集中できるメカトラックスの環境は、開発者にとって理想的ですね。
永里 ありがとうございます。
目代 業界の先駆けであり、「ラズパイ」という汎用エコシステムがあるなかで、実にうまくポジショニングできていると感じます。国内企業は独自システムの形成や内製化に走りがちですが、既製品をうまく使っている点が存在意義になっていると分析できます。シンプルで使いやすいという「柔軟性」を保ちながら、業界のノイズをいかに整理していくか。エコシステムが健全に機能してこそのメカトラックスの製品なので、業界の秩序の担保が重要ですね。
永里 おっしゃる通りですね。
目代 使い続ける仕掛けづくりができれば、さらに強力になるはずです。サブスクリプションが広がっている要因は、顧客の状況をつぶさに把握して継続的な収益が見えるところです。同じように、使い続けることでお客さまにメリットができる仕掛けがあれば。
永里 「使い続けるメリット」、メモします(笑)。業界の先駆者としてのブランディングが課題だと考え続けています。協業の発想を広げて、ロイヤリティやサブスクに変わる何かがあれば。私たちは開発に特化して、IPのライセンサーになる考えはありですね。
目代 リプレイスはある程度容認して、手間がかかるところは任せる手もあります。そこは永里社長のお考え次第ですが。今度のご活躍を期待しています。
永里 ありがとうございます。
「脇役に徹する」
永里さんは、他力を最大限引き出すことに知恵と努力を注ぐ。
製品は、ラズベリーパイの周辺機器。
価値提案は、顧客企業における試作~実稼働の助太刀。
社内では、エンジニアが仕事に専念できる環境づくり。
外でも内でも価値創出の主役を大切にし、自身は脇役に徹する。
エコシステムで生き残るための極意かもしれない。
目代武史
社名:メカトラックス株式会社(MechaTracks Co., Ltd.)
代表者:代表取締役 永里壮一
業務内容:ラズベリーパイ向け周辺機器の製造 / 販売、ラズベリーパイ組込機器の受託開発 / 小ロット製造、他
資本金:20,750千円
【福岡本社】福岡市早良区百道浜3-8-33 福岡システムLSI総合開発センター 6階
【糸島サテライトオフィス】福岡県糸島市東1963-4 社会システム実証センター 3階
【東京オフィス】東京都千代田区丸の内3-4-1 新国際ビル8階(富士ロジ・エンジニアリング内)